【書評】
作者:中西敦士
出版社:新潮社
発売日:2016/11/30
壮絶極まる商品開発物語である。
トイレや排泄に関する話題はとかく敬遠し勝ちであるが、極めて重要なテーマであることは誰しも否定できないところであろう。被災地支援などで重要かつ最も注目を集める食料、ライフラインの問題の陰で、話題にしづらい一方で避けて通れない問題という言い方もできるかもしれない。
日常においても気にしだすと気になるというか、意識していないうちはなんともないのであるが、ひとたび我慢せざるを得ない環境に放り込まれた途端にソワソワ落ち着かなくなる、という経験をお持ちの方も少なくないだろう。また様々な事情から、コレのせいで外出するのを躊躇ってしまうという方々にとっては、まさに死活問題なのではないだろうか。
筆者が開発する新商品。その名は「DFree(ディーフリー)」。Dは「おむつ」を意味する「diaper」の頭文字である。なんとなんと「おしっこやうんこが出るまでの時間を予測して知らせる装置」なのだ。それだけでも十分驚きなのだが、さらに重さが70グラムで「ウェアラブル」端末とくるのだから驚愕ものだ。
高齢化が進む現代社会において、「排泄ケア」は切実な問題であり、この装置への期待は高まるばかりである。また筆者も強調するように、インターネットを介して得られる「排泄のビッグデータ」が社会に与えるインパクトは計り知れない。
しかしそんな夢のような商品が容易く完成するわけはない。体を張った数々の壮絶な実験や犠牲(?)を経て少しずつ道が開けてくるのだ。そしてこれはめぐり合わせというのだろうか。様々な局面で筆者に巡ってくる縁や運(ウン?)というものも注目に値する。まるで不思議な力に導かれるように事態は展開していくのである。そして何よりもそのそもそものきっかけである壮絶すぎる体験が象徴しているかのように、この流れはもうどうにも止まらないのである。