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「だれも知らない小さな国」/佐藤さとる :講談社文庫

【書評】

「だれも知らない小さな国」

 作者:佐藤 さとる
 出版社:講談社
 発売日:1980/11/10


『夢、秘密、ねがい』

この児童文学作家には、個人的な思い入れがあります。
小学二年生のとき、担任の女性の先生が《宇宙からきたかんづめ》を朗読してくれました。それから、三年生にあがるころまで、当時出ていた佐藤さとるの緑色の背表紙二十冊くらいを、たいせつな宝箱のように惜しみつつよんだ記憶があります。小説がすきというより、文庫本がすきで、文庫本がすきになったのは佐藤さとるをよんだからであって、いまでも、文庫本を手にしながら生活しているのであれば、この作家と出会った小学二年生のときその方向性が決定されたのだとおもっております。

小人と人間との交流をえがいたコロボックルシリーズでは、《豆つぶほどの小さないぬ》がいちばんすきですが、ここではやはり作者の代表作であり、コロボックルシリーズ第一弾である本書を紹介いたします。
この本には、人が小説をよむとき期待するものすべてが盛り込まれているとおもっております。それは、夢とか、秘密とか、ねがいとか、あるいは自分ではない何ものかになりたい気持とか、他者とつながりたい気持とか、そういったもののことで、穏当な人生に深みと変化とをあたえてくれるもののことであります。小人と少年とが出会い、希望をはぐくみ、成長し、あたたかみや感動を大事にかぞえていく手つきと人生との物語であります。
冒頭の一章は、日本語で書かれたもっともうつくしい文章のひとつだとそうおもっております。

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