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「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」/為末 大

【書評】

「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」

 為末 大
 出版社:プレジデント社
 発売日:2013/5/30


 男子400mハードル銅メダリストである著者については、テレビ出演時のコメントなどから知的なイメージを受けていたが、本書を読んでも、そのイメージは変わらなかった。本書の中でも、一つのキーワードになっているが、著者は陸上競技、しかもトップクラスの世界の中で、しっかりと自分を見つめ、自分の軸となるものが出来上がった人なんだなと感じた。だからこそ、各所でのコメントにもブレが少なく、しっかりした内容になるのであろう。

 タイトルにある「諦める」という言葉は、著者が言うように、確かにネガティブな印象を受ける。スポーツ界に限らず、成功者は最後まで諦めずに続けたからこそ成功をつかむことができたのであろう。しかし、自分には合わない、才能がない、にもかかわらず、諦めるな、がんばれという周りからのプレッシャーによって、やめる機会を逸してしまい、その後の展開にも悪影響を及ぼしてしまうことは良くあることである。しかも、限られた人生のなかで、それではあまりにももったいない。本書は、著者の経験に基づき、このようなことにならないように、うまく諦める、もしくは選択するためのアドバイスである。

 著者自身、やりたかった100mを諦め、自分にとってより可能性の高い400mハードルに変更したそうであるが、それは、より自分の力を活かせるフィールドに切り替えたということだそうだ。そういう場面で、日本人は「諦めるな」と言いがちであるが、本書では、その切り替えのタイミングを誤るなということを言っている。私自身も、子どもに対して、このような観点もなく「中途半端なところで諦めるべきでない」ということばかり言ってきたかもしれないと反省させられた。

 面白いと思ったのは、著者のソーシャルメディアに対する見かたである。Twitterは、自分が他人にどのように評価されているかを知ることができる鏡のような存在であるが、匿名という解放感があって、攻撃的な人格が出てきたりする。また、Facebookに上げる情報は、「見て欲しいもの」であり、リアルの自分とは異なる人格を演じている部分がある。そのようなソーシャルメディアを通じて見える世界は、現実そのものではなく、そこで批判されていることも絶賛されていることも、ある程度修正をかけて見ていく必要があると説いている。やはり、自分の軸をしっかり作っていくということが大切だ、ということのようである。

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