【書評】
作者:原島 由美子
出版社:ヴィレッジブックス
発売日: 2007/12
若い頃、正月に実家に帰省すると父親はいつも箱根駅伝の中継を見ていた。私自身は、その当時、むしろお笑い番組の方を見たかったように記憶しているが、近年は私も箱根駅伝の中継を見るのがお決まりになってしまった。何に惹かれるのか考えたこともなかったが、やはり、必死に走りタスキをつなごうとする大学生の姿はもちろん、その背景にある大会の歴史や数々の感動的なエピソード、それらの総合力なのだと思う。
本書は、その箱根駅伝を2日間にわたって初めて生中継した時の番組制作チームの実録である。今でこそ、当たり前のように生中継が行われているが、本書を読むと、初めての生中継を成功させるための制作スタッフの苦労が臨場感をもって伝わってくる。箱根の山岳コースを中断することなく生中継し続けるという、当時不可能と言われた中継をいかに成功に結びつけたのか。特に一つのプロジェクトとしてみると、志の高い優秀なリーダーとそのリーダーを支える複数の参謀、さらにはチームとしてのまとまりが、いかに大切であるかということを改めて感じさせてもらった。
また、番組制作の話だけでなく選手を始め関係者の箱根駅伝に対する思いについても、色々な話がちりばめられている。戦時中の大会に出場した選手の決死の思いや、タスキをつなげなかった選手、大会直前にメンバー交代になった選手の話など、さまざまのエピソードが各大会の裏に存在しているのだ。箱根駅伝の中継に引き込まれてしまう理由が、そんなところにも潜んでいるのであろう。
あっという間に本書を読み終えてしまったが、箱根駅伝を見る時の視点が新たに一つ加わったように思う。今から来年の箱根駅伝の中継が楽しみである。