【書評】
「子どものまま中年化する若者たち 根拠なき万能感とあきらめの心理」
作者:鍋田 恭孝
出版社:幻冬舎
発売日: 2015/07/29
いつの時代でも、「最近の若いやつらは、」ということを言うオヤジがいるが、本書では、最近の若者に見られる傾向は、今までに無かったような大きな変化が見られると説明している。
本書は、精神科の臨床において、長年、若年世代を見続けてきた著者が、最近の若者の傾向について分析したものであるが、著者によると、最近の若者の傾向としては、「動かず、無理せず、多くを望まず、心やさしく、不安を抱きつつ、日常を仕方なく生き、文句を言うこともなく、それなりに満足しながら、淡々とこぢんまりとした空間、乏しい関係性、身近な世界で生き続けている様子がうかがわれる。」とのことである。確かに、草食男子という言葉を始め、上記を部分的に表現している言葉もたくさん生まれている。
本書では、この傾向を裏付ける最近の事件や臨床での実体験を多くあげており、正直、読んでいくうちに、日本の将来に不安を覚える感じがしてきた。著者も説明するように、人、特に若者は、時代の影響を鋭敏にとらえる。従って、この傾向は、まさに成長神話が終焉を迎え、向かうべき方向性が失われた今の時代を反映していると言えよう。ただ、著者によると、これは単に成熟社会の宿命だけでは説明のつかない変化が起きているとのことである。それは溢れたシステムとバーチャルな世界の影響であり、過去には無かった要因とのことである。
要は、最近の若者は本書のタイトルの通り、子どもからいきなり、自分の将来がほぼ見えてきた私のような中年の思考に移行しているということらしい。ただ、本書の最後で、このような中でも「何か新しい生き方が生まれつつある気配を感ずる」と著者も書いており、最後に少し安心した。個人的には、今の若者が社会の中心になった時に、人心を引きつけることにたけた独裁者が現れなければ良いのにと思うばかりである。