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「保田与重郎文庫 (21) 万葉集名歌選釋」/保田 與重郎

【書評】

「保田与重郎文庫 (21) 万葉集名歌選釋」

 作者:保田 與重郎
 出版社:新学社
 発売日:1999/07


『ありがたい伴侶』

 万葉集と新古今和歌集とのちがいは、こんな感じだとおもっていて、

・田兒の浦ゆ 打出て見れば眞白くそ 不盡の高根に雪はふりける (万葉集)
・田子の浦に 打出て見れば白妙の 不盡の高嶺に雪はふりつつ (新古今和歌集)

 どちらがすきかといわれたら、万葉集のほうがすきだ。保田與重郎《日本の文學史》では、冒頭で紹介される古事記から万葉集のくだりに全紙数の三十パーセントが割かれており、万葉集を理解することでその次ぎにあらわれる詩歌物語を解し、時代を降っていって現代に至るさまざまな文学形式や、感情の凡てを理解する。網羅的に日本の全文学を受容できるようになる。そういうありがたい位置づけが示されております。

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 万葉集をよむ、といって、最初から順序をつけてよんでいくにはあまりに長大で、国文学のグラデーションを探求したいのでなければそのような必要もなく、ぱらぱら飛ばしよんだり、あっちいったりこっちいったりしつつ、印象に残ったフレーズをみつけて口吟すればよいのだとそうおもいます。自分の場合、大学生のころご他聞に洩れず大来皇女や山部赤人がすきで、巻二や巻三をくりかえしめくっておりました。自分の年齢とか、おかれた状況で、都度つどあたらしい気持や心をみつけていくような、これもまた、そういうありがたい存在かとおもい、だれもが手のうちに具しておくべきものかとおもっております。
いろいろな文庫へまとめられており、編者によって毛色もちがってくるため、いちがいにこれといえませんが、言葉の敷居が高いならたとえば前述保田與重郎の《萬葉集名歌選釋》(保田與重郎文庫)をおすすめしておきます。作者の保田がいかに万葉集をすきであるか、伝ってきて、何んだか好いひとへ出くわした気持になれます。

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