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生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方/武藤北斗

【書評】

「生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方」

 作者:武藤北斗
 出版社:イースト・プレス
 発売日:2017/4/16



 「好きな日に働き、好きな日に休む。連絡も一切いらない…というか禁止」、「好きなことを優先させ、嫌いなことはやらない」。そんな働き方はどうだろうか。理想的だろうか。非常識だろうか。最初から無理に決まっているだろうか。とても現実にはあり得ないようなそんな会社が実在する。しかもそのシステムを導入して以降、着実に業績を伸ばしているという。

 大阪にある小さなエビ加工会社。創業者である父親とともに会社を経営する著者は、ここの工場長でもある。実は工場は以前、石巻にあった。2011年の東日本大震災で被災し、これがきっかけで生きることをシンプルに見つめるようになり、会社や社会のあり方に疑問を持つようになったと著者は言う。人を縛るような働き方を従業員に強いることは本当の意味での効率化に繫がっていない。みんな違って当たり前で、人それぞれ得手不得手がある。一方、冒頭に紹介した働き方ができるのは9名のパート従業員のみである。著者を含む2名の社員には適用されない。しかし何もこの働き方だけが全員が目指すゴールというわけではないだろう。より良い働き方を模索するときの参考とし、個々の会社の事情や個人の役割を考慮した上で、独自のやり方を考えるということはどこの職場でもできるはずだ。

 著者は、またこうも言う。「人の悪口を言ってはいけない」、「自分が嫌なことは人にしてはいけない」などの子どもに教える当たり前のことが、大人の社会、経済活動の中心である会社の中では通用しにくくなっているのではないか。大人はこの社会の中に諦めに似た矛盾や疑問を抱えていないか。そう聞いてギクリとすることはないだろうか。折しも働き方改革が叫ばれる昨今。小手先だけの修正や手直しではどうしようもないところまで、我々はもう来てしまっているようにも感じる。朝の通勤電車で見る人々はこぞって不機嫌そうで不愉快そうで、嫌だけど仕方なく仕事に行きますと顔に書いてあるように見えたりしないだろうか。

 理想と現実は違うと言われたらその通りかもしれない。しかし、少しずつでも理想に近づくようにこの社会、経済の仕組みを変えていく努力は続けるべきではないだろうか。「縛り」「疑い」「争う」ことから抜け出し、人間が人間らしくお互いに信頼して暮らしていける世の中。経済最優先の管理社会から人間最優先の信頼社会への移行が、今の我々の課題のような気がしてきた。

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