【書評】
作者:土屋 健
出版社:誠文堂新光社
発売日:2016/7/4
本書は、日本の恐竜研究史上、最大級の発見と言われるハドロサウルス科の全身骨格化石の発掘記である。著者自身が、学生時代に地質学や古生物学の研究を行っていたサイエンスライターであり、今回の発掘に携わった関係者を幅広く取材し、それぞれの視点で発掘物語を綴っている。また、恐竜に関する基本的な知識や発掘作業の進め方などについても、分かりやすく解説されており、300ページを超える内容であるが、楽しく読むことができた。
そもそも日本では、恐竜化石の発見こそ最近は増えてきたそうだが、その大半は部分化石でバラバラの状態で見つかるとのことである。そんな中で、2003年に北海道のむかわ町で見つかったこの化石は、全身の骨格が、しかもつながった状態で発見されたそうで、世界級の標本と言えるとのことである。
本書を読んで分かったことだが、これほどの規模の発掘で、かつ北海道という土地柄、冬は雪が積もって発掘作業ができなくなるため、数年の時間をかけて発掘作業を進めることになる。しかも最初の標本が見つかってから、本格的な発掘にいたるまでにも、標本の優先順位や順番待ちでかなりの時間を要するようで、実際、この発掘のケースでも、2003年に標本が持ち込まれたのち、2013年の第一次発掘で大腿骨を発掘、2014年の第二次発掘で頭骨を発掘と進み、2016年夏の時点で化石のクリーニング作業が進行中という状況とのことである。
タイムリーなことに、本書を読んでいた2017年7月7日の日経新聞夕刊に、“「むかわ竜」千客万来”という記事が出ていた。2017年6月に2日間一般公開(ただし一部の部位のみ)が行われたとの記事で、人口8500人の町に5千人超の見物客が訪れたそうだ。体長約8メートルとのことだが、近い将来、全身骨格の展示もなされるであろう。その時の盛り上がりは、これどころでなないのではないだろうか。その時には、是非見学に行きたいと思う。