【書評】
「さよならインターネット – まもなく消えるその「輪郭」について 」
家入 一真
出版社:中央公論新社
発売日:2016/8/8
最近、インターネットやスマホアプリで提供されるサービスに対して、何か監視でもされているのではないかと違和感を覚えるのは、私だけではないはずだ。本書は、学生時代に、いじめがきっかけで引きこもりになり、就職後も対人関係に悩み「誰にも会わずに仕事がしたい」と起業。その後、紆余曲折はあったもののインターネットの発展とともに、インターネット業界で独創的なサービスをいくつも立ち上げてきた著者が、インターネット発展の歴史を振り返りながら近年の変化に言及したものである。
著者は、インターネットの世界そのものは、相変わらず加速度的に拡大を続けているが、個々人が触れる世界だけを見れば、より精度や感度が高くなったぶん、ムダが排除され、どんどんつながる世界が縮小を続けており、個人を中心とした小さい、分割された世界がたくさん生まれていて、趣味嗜好はもちろん、政治信条などが異なる人がいい意味で交わることも減ってきていると言う。近年、ヘイトスピーチなどが増えているのも、それが理由であると説明する。
また、行き過ぎたつながりが、お互いを見張っているような居心地の悪さや炎上をどこかしこで引き起こすようになったとも言う。実際、つながりを断つほうが難しく、どこに行っても人はつながってしまい、休むことができなくなっている。また、知っている人だけで作られた世界は、心地よいかもしれないが、見張られている感じもするので、どこか閉塞感があるのも否めない、という点は大いにうなずける。いずれ、それに気がついて、インターネットの世界に新たな方向性が出てくることを期待したい。著者も、自分と共有する哲学を持つ仲間を見つけつつ、それでいて多様性が維持されるような、そんな理想的な関係を構築するためプラットフォームを創ることに言及している。
一つ面白いと思ったのは、自分のアカウントを使って他の誰かがつぶやいたとしても、それっぽくつぶやけば、見分けがつかない。だからプログラムを使うなどして、永遠にメッセージを発信し続ける概念的な人が生まれれば、死んだことにも気が付かない可能性がある、という点だ。確かに、AIなどが自分の代わりにつぶやき続ければ、いつまでも生きているかのような存在になるかもしれない。