【書評】
中野 孝次
出版社:新潮社
発売日:2005/11
本書は、六十の還暦からの老年を人生の一番いい時と思って生きてきた著者が、40代半ばの甥っ子に語りかける形で、老年のあり方を記したものである。目次を見た時には、老後のための準備を早く始めなさいという、よくある本かと思ったが、読んでみるとなかなか深みのある内容で、改めて時間をおいて読んでみたいと思った。
なぜそう思ったか自分なりに考えると、著者が西暦紀元の初めころのローマの哲学者や中国古代の禅僧の言葉などを引用し、人が生きる上で大事なことは、古今東西を問わず共通であるということを説いているからであろう。確かに、訳されたものではあるが、二千年前の人が言った言葉とは思えないくらい、今の自分に響く言葉が多く引用されており、これぞ読書の醍醐味(ちょっと言い過ぎか)かもしれない。
著者は、老年とは、もろもろの事から解放され、自由なる一個人に戻る時であると言う。この時に、孤立感や無力感に陥るか、この自由を思う存分に楽しむかはその人次第であるが、後者の生き方に至るには、四十代、五十代から心の準備を始めるべきだと言う。その他にも参考になる助言がたくさん盛り込まれている本書であるが、そういった助言も、生かすかどうかは人それぞれである。
著者の言うことを実行するには、一部は経済的な余裕が必要かもしれない。だがアラ還世代になって、そんな事にケチをつけても仕方がない。どんな助言もそうだが、自分に当てはめられることを自分なりにアレンジすれば良いのである。また、本書とは対極の、「100歳まで現役で」といった本も多くあるが、そういった本も読みつつ、自分に合った老年を探っていけばよいのではないだろうか。人それぞれなのだから。私ももうすぐ「閑」を楽しめる最高の時が来ると信じたい。